新規事業の「熱量低下」をどう察知するか?進捗報告が止まる前のサイン

新規事業プロジェクトの熱量が落ちてくると、多くの場合、進捗が報告されなくなってきますが、進捗が滞る前に手を打てば危機を抜け出すことができることも多いものです。皆さんは早期に不活性プロジェクトを見つける工夫をしていますか?


そもそも、新規事業においては、計画よりも行動の記録のほうが何十倍も重要です。

緻密な計画を立ててしまうと、その計画通りにできているかどうかが重要なことだと勘違いしてしまいます。むしろ過去の行動記録から、プロジェクトが新しい発見を探索できているか、または不確実性が低くなっているかを管理することのほうが重要です。何より、進捗状況の更新頻度やコミュニケーションのやり取りを記録に残し可視化することで、モチベーションや活性度をウォッチすることができます。


今回は、進捗状況の更新頻度やコミュニケーションの記録を通じて、プロジェクトのモチベーションや活性度を可視化し、支援が必要なプロジェクトを特定するための仕組みについて考察します。

このような進捗把握ができる仕組みを作ることで、どのプロジェクトが前に進んでいて、どのプロジェクトが支援が必要なのかを把握することができるはずです。


仮説指向計画法が教える「計画より学習記録」を優先すべき理由

新規事業においては、詳細な計画を立てることよりも、実際の行動記録を重視するべきです。緻密な計画は、計画通りに進んでいるかどうかを過度に意識させ、本来の目的である新しい発見や不確実性の低減を見失わせる可能性があります。


コロンビア大学ビジネススクール教授のRita Gunther McGrathは、著書『Discovery-Driven Planning(仮説指向計画法)』の中で、「従来の計画(Conventional Planning)は、プロジェクトが既知の前提に基づいている場合に有効だが、新規事業のような不確実性の高い環境では、『何を学んだか』という行動の結果(Learning)に基づいた計画の修正が不可欠である。計画そのものよりも、仮説を検証するための行動記録が成功の鍵を握る。」と述べています。


このように過去の行動記録を分析することで、プロジェクトがどのような探索を行い、どのような成果を上げているのかを客観的に評価できるはずです。


実験回数と顧客対話:行動記録から読み解く「探索の深さ」を示す4つの指標

ハーバード・ビジネス・スクール教授のStefan Thomkeは、『Building a Culture of Experimentation(実験の文化を築く)』の中で、「ビジネスにおける成功は、どれだけ多くの実験を、低コストかつ迅速に行えるかにかかっている。実験の回数は、単なる作業量ではなく、組織が未知の領域に対してどれだけ深く探索を行っているかを示す先行指標である。」と述べています。


そのためどれだけ深く探索して新しい発見ができたのか把握することが成功への近道ということでもあります。プロジェクトが新しい発見を探索しているかどうかは、行動記録があれば判断できます。例えば、行動記録から抽出できる指標には、以下のような指標が考えられます。


•  実験の実施回数:

  新しいアイデアや仮説を検証するための実験を積極的に行っているか。

•  顧客インタビューの実施回数:

  顧客のニーズや課題を深く理解するために、顧客との対話を重ねているか。

•  競合調査の実施回数:

  競合他社の動向を把握し、自社の戦略に活かしているか。

•  ピボットの回数:

  計画の変更を柔軟に行い、より有望な方向に軌道修正しているか。


これらの指標が高いほど、プロジェクトが積極的に新しい発見を探索していると考えられます。



事実(Fact)で不確実性を消す。エビデンスに基づいた進捗評価のあり方

新しい発見と同様に、新規事業プロジェクトの成功は、不確実性をいかに低減できるかに依存します。


「不確実性を低減させる唯一の方法は、エビデンス(証拠)を積み上げることである。行動記録を通じて、仮説に対するエビデンスの強さを可視化することで、プロジェクトが単なる推測(Guess)から、事実(Fact)に基づいた段階へ進んでいるかを測定できる。」

『「Testing Business Ideas』 著者:David J. Bland / Alexander Osterwalder URL:https://www.strategyzer.com/library/testing-business-ideas-book


プロジェクトが不確実性を低減できているかどうかは、行動記録から判断できます。例えば、以下のような指標が考えられます。

•  仮説検証の成功率:

  立てた仮説が検証によって支持される割合が高いか。

•  顧客からのフィードバックの肯定的な割合:

  顧客からのフィードバックが肯定的である割合が高いか。

•  KPIの改善率:

  設定したKPIが改善されているか。

•  リスクの特定と対策の実施状況:

  プロジェクトのリスクを特定し、対策を講じているか。


これらの指標が高いほど、プロジェクトが不確実性を低減できていると考えられます。



心理学から見た進捗管理:『進捗の原理』がチームの活性度を最大化する

進捗状況の更新頻度やコミュニケーションのやり取りを記録に残し、可視化することで、プロジェクトのモチベーションや活性度を観察することができます。


進捗状況の更新頻度

ハーバード・ビジネス・スクール教授のTeresa Amabileは、『The Progress Principle』の中で、

「やりがいのある仕事が進展しているという感覚(進捗)こそが、日々の仕事におけるモチベーションと感情を最も高める要因である。進捗が可視化され、更新が頻繁に行われる環境では、メンバーのエンゲージメントが劇的に向上する。」と述べています。


進捗状況の更新頻度は、プロジェクトの活性度を示す重要な指標です。更新頻度が低い場合は、プロジェクトメンバーのモチベーション低下や課題の発生を示唆する可能性があったり、具体的な成果や課題の記述が少なく形式的な報告になっているような更新内容の質が低下している場合は、プロジェクトが形骸化している可能性があります。頻度と品質をウォッチすることでアラートを上げることができるはずです。


コミュニケーションの記録

様々な研究結果が示すように、高いパフォーマンスを発揮するチームには、メンバー間のコミュニケーションの頻度と質に明確な特徴があります。特定の個人が主導するのではなく、全員が均等に、かつ頻繁に対話を行っているチームほど、複雑な課題解決能力(集団知能)が高いことが示されています。


このようなコミュニケーションの頻度と品質を把握するためには、メンバー間のやり取りを記録することが重要です。

コミュニケーションが活発に行われている場合は、プロジェクトが円滑に進んでいると考えられますし、コミュニケーション量の減少したら、プロジェクトメンバー間の連携不足や、情報共有の停滞を示唆する可能性があります。また、建設的な議論や意見交換が少なく、事務的な連絡のみになっている場合は、プロジェクトの創造性が低下している可能性があります。



停滞プロジェクトを救う「アラート機能」の作り方と具体的な支援策

これまで新規事業プロジェクトにおいては、緻密な計画よりも進捗状況やメンバー間のコミュニケーションを記録に残すことで不活性プロジェクトを見える化することが重要だと述べてきました。

進捗状況やコミュニケーションの記録を可視化することで、プロジェクトの状況を客観的に把握し、早期に問題を発見することができますが、プロジェクトの状況を俯瞰的に把握するためには進捗状況、コミュニケーション量、KPIなどの記入を一元的に自動化することが必要です。

例えば、進捗状況の更新頻度、1日あたり(または一人当たり)のコミュニケーション量、新しい発見のインプット、低減された不確実性の数値、現在のステージゲートに滞在している期間などを事前にKPI設定することで、支援が必要なプロジェクトを特定することができるでしょう。進捗状況の可視化を通じて、どのプロジェクトが前に進んでいて、どのプロジェクトが支援が必要なのかを把握し、次のような支援を提供することができるはずです。

•  メンターの派遣:

  経験豊富なメンターを派遣し、プロジェクトの進め方や課題解決をサポートします。

•  リソースの追加:

  プロジェクトに必要なリソース(人員、予算、設備など)を追加します。

•  計画の見直し:

  プロジェクトの計画を見直し、現実的な目標を設定します。

•  チームの再編成:

  プロジェクトチームのメンバーを再編成し、より適切なチームを組成します。



まとめ:管理の目的は「監視」ではなく、現場への「最適な支援」

新規事業プロジェクトの活性度を可視化し、支援が必要なプロジェクトを特定するための仕組みを構築することは、新規事業の成功率を高める上で不可欠です。

緻密な計画よりも行動記録を重視し、進捗状況の更新頻度やコミュニケーションの記録を通じて、プロジェクトのモチベーションや活性度を継続的に観察することが重要です。可視化された情報に基づいて、適切な支援策を実施することで、プロジェクトを成功に導くことができます。